2016/11/3(祝) Fリーグ第17節 墨田区総合体育館
フウガドールすみだ 2 - 3 名古屋オーシャンズ

堂本光一ファンの知り合いが2000年から毎年帝国劇場で上映されるSHOCKシリーズを見に行っているらしい。

年度毎にストーリーは異なるものの、毎年序盤、中盤、終盤で3公演を見たいとのことで、理由は『演劇は生き物で、制作側が観客のリアクションや演者の嗅覚を頼りに演出は変わっていくし、初回と千秋楽は別物でその変化や理由を考えながら見るのが楽しい』とのことだった。
 
光一ラブが根底にありつつ、観客のリアクションを見てより良いものを提供しようとする演劇のキモを理解している熱心なファンだなー、と思ったが演劇の楽しみ方としてはそれが王道なのだろう。

Fリーグベストバウトに間違いなくノミネートされる9/3(土)小田原セントラルでの5-5のドローから2ヵ月。
場所をすみだのホーム、墨田区総合体育館に移してのすみだVS名古屋の今シーズン2試合目は前回と同じく前プレとプレス回避、ボールを奪取してのトランジション、定位置攻撃(プレスを回避して相手陣内に押し込んだ状態からの攻守)のそれぞれに見応えがあり、ミスが少ないハイクオリティーな首位攻防戦になった。

セルジーニョ選手の驚異的な粘りから星選手が決めて名古屋が先制も、ワールドカップ中断明けから出場時間を伸ばす新加入の左利きのアラの山村選手が見事な左足ミドルで同点に追いついて前半を折り返す。
 
後半は前鈍内選手とシンビーニャ選手が強烈に蹴り込んで1-3と名古屋が突き放す。
質量ともに十分な名古屋の前プレに手詰まりとなったすみだだったが、稲葉選手がキックインか
ら中央へ速いボールを送り、掻き出そうとした名古屋ディフェンスに当たってのオウンゴールを誘発し2-3。

その後は濃厚な鍔迫り合いが続くもスコアは動くことなくゲームセット。
すみだの内容も悪くはなかったが、星/安藤/サカイ兄弟らの頑強なフィクソ、橋本選手を筆頭にしたフロントラインのプレスの練度が高く、ベンチでメンバーに激を送り緩みを許さない監督のペドロコスタを含め1点差を集中力十分にシャットアウトして見せる名古屋のプロチームらしいクオリティの高さが際立った。

個人的には見終わった後にクタクタになるほど緊張感を要求される充実した内容だったが、興業としてはミスが少ないゆえに派手なプレーが少なく非常に地味とも感じたし、1,875人の観客を集めて立ち見も出た90分のショータイムを会場がどれだけ楽しめたのかが少し気になった。


何を持って観客が楽しいと感じるのか、楽しいと感じるものを提供できるかはプロスポーツとして避けては通れない命題だと思う。
 
地上波の露出も少なく、専門誌以外で取り上げられることのないFリーグの初観戦のキッカケは(サッカー/フットサルをプレーしている人が)競技の参考にだったり、なんらかの要因で競技そのものが好き、関係者/友人に誘われてというところだろうが、一見さんだけでは到底達成できない1,875人を呼び込んだ2度目ましてのキッカケはなんだろうか。

F1や大相撲は競技をやったことがない観客がほぼ100%というプロスポーツだが、F1は1日に7、8万人の観客を集め、大相撲は15日間の大半が大入りになることも珍しくない。
『カープ女子』という言葉で沸いた2016年のプロ野球だが女子の硬式野球部がある高校は全国で20校ほどだ(注:全国高等学校女子硬式野球連盟)。

見るよりやるスポーツという側面が強いフットサルだが、上記はフットサルとは逆にやるより見るスポーツで、明確に『自分がやる』以外のファクターが万単位の観客を呼んでいる。
そこには競技の参考にという要素は皆無であり、みんなで共通の演目を見るという一体感や、迫真のファインプレーに期待しつつ贔屓のチームや選手を応援するという雰囲気に惹きつけられている人が多いのだろう。

『一度見てくれれば面白さはわかるのでフットサルを見に来てほしい』という人は多いが、観客が定着するかに必要なのは試合が面白いかとはまた別の話なではないだろうか。

あるに越したことはないし、当然あってほしいがリーグの魅力が試合だけである必要はまったくない。
 
どちらかというと会場の雰囲気作りや盛り上げ方、グッズや席種のプレミアム感や、選手との交流といった体験に価値を見出せるかが集客のカギだと思うし、私はあまり好きではないがすみだのストリート感のあるキャップやパーカー(やる層を意識してプラ素材にしておらずタウンユースでもなかなかのクオリティ)というグッズ展開や、試合後の入口での選手のお見送りは毎回出入り口が混雑するが導線上必ず目にすることになり非日常感の演出としては二重丸だろう。
 
会場でレプリカやグッツを身に着けている人が多いのも見逃せない点で、墨田区総合体育館に来るお客さんが試合そのもの以外も楽しんでいるのが非常によくわかる。

カリスマ指導者と資金力を得てPRも上手くいきスタートダッシュに成功したBリーグが羨ましいという話を度々目にするが、こと集客に関しては何が面白いかを『フットサルの試合』と定義しがちなところがFリーグの失敗だと思うし、Bリーグと比較すべきは試合以外のクオリティだ。

F1、大相撲、野球、はては演劇と比べフットサルは歴史が浅い。

演目に対する楽しみ方に関する文献や共通知が熟成されておらず、ゴールシーンやカウンター合戦以外に沸くというのは少ないのではと思うし、攻守の切り替え後に、定位置攻撃というメインストーリーがあり、セットプレーとパワープレーという局面切り出し型のスピンオフというのがゲームの構造だが、そういった競技本来の魅力が集客に直結するのはもう少し時間がかかるのではと思う。

無料券の配布や地元少年サッカーチームの招待など一見さんへの誘導は各チームそれなりにノウハウはあるだろう。
純粋に競技そのものを愛好するマニアやライト層が共存しているのがプロスポーツを取り巻く環境だと思うし、Fリーグがリーグを挙げて考えるべきは2試合目に足を運んでくれるライト層に対する施策なのではと思う。

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試合前のアップでは無邪気な笑顔も、徐々に男の表情になる名古屋の22歳信号機トリオ(青:齋藤選手。黄:八木選手。赤:橋本選手)。
橋本選手は赤信号らしくすみだの攻撃を寸断するプレスマシーンとしての役割を牽引。
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最近増えてきた清水/西谷/渡井の組み合わせに入って先発出場のNo2山村選手。
オフェンスの変化を期待されての左利きのアラは見事なミドルシュートで同点弾。
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フットサルの華のひとつ、フィクソVSピヴォ。
星VSボラと諸江&渡井VSシンビーニャ。
名古屋は本職フィクソの安藤選手をピヴォに入れるオプションも非常に厄介。
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口髭&スーツでダンディにキメたペドロコスタが『勝てるとか思ってるヤツはシバくぞ!!』とばかりにタイムアウトで選手を一喝。
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タイムアウト時にボードを観客席に見えるよう、選手を座らせて指示を送る須賀監督。
北風と太陽のような両チームの監督を見ながら一緒に戦っている感覚を体験できるのもアリーナ席の魅力。