2016/11/22(火) 国際親善試合 MFP味の素スタジアム
リガーレ東京 1-2 トルクメニスタン代表

トルクメニスタンという国をご存知だろうか。


中央アジア南西部に位置する共和制国家。
カラクム砂漠が国土の85%を占めており、国民のほとんどは南部の山沿いの都市に住んでいて、豊富な石油や天然ガスを埋蔵する。
西側でカスピ海に面し、アフガニスタン、イラン、ウズベキスタン、カザフスタンと国境を接する。
首都はアシガバートで、永世中立国である。20世紀の末から21世紀にかけてソ連からの独立を果たした。

とある。

日本にトルクメニスタンを知る情報はほとんどなく、60分ほどネットサーフィンをすればURLは一周する。

得た情報を整理すると、議会や政党はあるものの大統領制による独裁政治で出入国は厳しく管理されており、ガソリンや住居は国が国民に安価に提供し、都市部は整備された道路と団地のようなビル群が並ぶ。
半ば鎖国状態にありながら資源の輸出で得た外貨を背景に国民生活はそれなりの水準で、国としてもよく統制が取れている穏健な独裁国家といった少々不思議な国、それがトルクメニスタンだ。

そんな国にフットサル黎明期を駆け抜けたふたりの日本人指導者が滞在し、同国のフットサル代表チームの強化に携わっている。
ひとりはFリーグ府中のGM/監督を務めた中村恭平氏、もうひとりはペスカドーラ町田の前身であるカスカヴェウ、Fリーグの湘南等を率いた前川義信氏だ。

JFAの活動のひとつに『国際交流・アジア貢献活動』というものがある。

経済およびサッカー先進国としてアジアのサッカー後進国への支援(当然だがAFCでの議会選挙の際に各国が持つ票を日本が取りたいという政治的な目的もある)として物品提供を行っていた同活動だが、2011年から指導者の派遣も開始するリリースをAFCに提出する。
それまで物品提供にはリアクションを示さなかったトルクメニスタンだったが、このアナウンスには興味を示し指導者の派遣を要請。

ただしそれは『サッカー』ではなく『フットサル』としてだった。

協会が驚きとともに適任者を探した際に白羽の矢が立ったのが中村氏であり、2011年から2012年までコーチとして同国を指導。
(ただし国状から入国ビザが許可されないためUAE、タイ、ベラルーシなど第3国でのトレーニングキャンプや親善試合、2012年W杯予選に帯同。
当時のJFAのレポートでは本大会で16強に進出したタイ、2016年W杯予選で日本に引導を渡したキルギスを相手に健闘したとある。
氏の熱を感じられる非常に濃い内容なのでゼヒ読んでほしい)

その後、2017年9月にアジアインドアゲームズの開催が決定したトルクメニスタンがフットサルの強化の一環として再び中村氏に監督就任を打診。
トルクメニスタン代表監督就任に合わせて同氏が前川氏をコーチに推挙し、特例的な入国ビザが発行されトルクメニスタンフットサル代表に2人の日本指導者が携わることになった。

そしてそのトルクメニスタン代表が強化合宿とトレーニングマッチを行うため、2016年11月17日~11月30日までの14日間日本にやってきた。

前述の通りミステリアスな国情の彼らがスポーツを媒介として海外に渡るというのは非常に稀で(少々事例は異なるが1995年に世界的に孤立していた北朝鮮でアントニオ猪木がプロレスを開催した無茶苦茶さを思い出してしまった)親善試合は、

11/22(火):リガーレ東京(関東1部/2015・2016年同リーグ優勝)
11/23(水):フウガドールすみだ(Fリーグ/2015年同リーグ3位)
11/26(土):ファイルフォックス府中(関東1部/2016年同リーグ準優勝)
11/29(火):バルドラール浦安(Fリーグ/2015年同リーグ8位)
11/30(水):ペスカドーラ町田(Fリーグ/2015年同リーグ2位)

といった関東の強豪が堂々と待ち構えるスケジュールになっていて、トルクメニスタン代表来日について情報提供いただいたスティーブ・ハリスさん(府中アスレティックFCのFacebookでコラムを連載)と幸運にも初戦のリガーレ東京戦を一緒に観戦させていただいた。

トレーニングマッチの舞台はFC東京のホーム、味の素スタジアムの横の民間施設であるMFP味の素スタジアム。
22:00からの施設の利用開始時間に合わせ、21:30頃からナショナルカラーの緑を基調にしたジャージを着たトルクメニスタンの選手たちが登場し、施設の外でランニング&ダッシュのウォーミングアップを開始する。

日本人コーチに率いられて日本でのトレーニングマッチに挑むトルクメニスタン代表。

まったく知らない言葉を話す彼らが薄暗いアスファルトの上でテンションの高い円陣を組み、屋内の逆光を受けて施設に入る後ろ姿がミステリアスさも相まって少し神々しく見えた。

試合は前半8分前後に右サイドからのキックインを小山選手がチョンドンで決めてリガーレが先制。
その後はハーフに引いて2ラインを形成して守るトルクメニスタンがしぶとく凌ぎ、フットサルに長けたリガーレがボールを保持して押し込む展開になる。

後半は徐々にトルクメニスタンが試合に慣れ出し、胸板や臀部の分厚さが光るフィジカルと負けん気の強さで球際に激しく当たる。
トルクメニスタンの攻め手はピヴォ当てもパラレラもなく、カウンターを含めドリブル突破→シュートの一辺倒だったが、迫力のある鋭い切り返しを駆使したドリブルと堅守を誇るリガーレディフェンスとの1対1は非常に見応えがあった。

試合全体を通し大方はリガーレペースだったが、後半10分過ぎにキックインからのチョンドンでトルクメニスタンが同点に追いつくと、コーナーキックから中央で待ち受けた選手が豪快に蹴り込む連続ゴールで1-2と逆転。

フットサルとしての引き出しの多さでは圧倒的にリガーレに軍配が上がるだけのチームクオリティの差があったが、フィジカルと気持ちで球際を制し、ドリブルで好機を演出、セットプレーから丸太のような足で繰り出す強烈なシュートで得点を挙げるという、非常に小さいパズルのピースを組み合わせてトルクメニスタンが嬉しい日本初勝利をあげた。

もう亡くなってしまったが私の祖父は終戦時に満州で捕虜となり、数年間ロシアに抑留されシベリア鉄道の工夫をしていた。
戦傷なのか凍傷なのか経緯は聞けなかったが手の指が数本なく、小柄だが筋骨隆々で、愛想のいい好々爺といった風貌で大好きだった。

普通に暮らしていれば接点のないミステリアスな国であるロシアの印象を聞くと『暗いイメージのある国だが、総じて陽気で、礼儀正しく、素直で純粋だ』とのことで、捕虜になっていた際に祖父が身につけていた腕時計を羨ましそうに見ていた彼らに、彼らの食事と腕時計の交換を持ちかけたところ嬉々として交換に応じたというエピソードを顔をくしゃくしゃにして語ってくれたのを今でも覚えている。

日本に住んでいると本当かどうか実感できない話だったが、2012年のワールドカップで巨体を揺らして自国を陽気に応援する祖父と同年代のサポーターのおじさまを見て、なぜかロシアを身近に感じた。

それ以来、旧ロシア領を含めロシアはいつか行ってみたい国としてどこか心に引っかかっている。

リガーレ東京との試合前のわずかな時間に中村氏と話しをできる時間があり、祖父のロシアのエピソードを話すと同様の事を氏も祖父から聞いたことがあるとひとしきり盛り上がった。
また、当時は100名弱ほどの日本人捕虜がトルクメニスタンに工夫として派遣されていたらしく、彼らは首都アシガバートから続く幹線道路のトンネルの掘削に尽力したとのことで、現地の方は日本人に対する感謝や尊敬の念があるということをトルクメニスタンで聞かされたという。
想像すらしていなかった日本人も知らない日本人の異国での活躍になんだか胸が熱くなってしまった。

トレーニングマッチ終了後、施設の使用時間の24:00までのミニゲームが終わる。
ホテルへの移動手段が必要とのことでハリスさんの車にもトルクメニスタンの選手を3名乗せて彼らのホテルへ向かった。
資源国国家であるところの一国の代表チームが14日間過ごすということでさぞ立派なホテルではと想像していたが、目的地に着くと長期出張のサラリーマンが常宿に使うようななんてことのないウィークリーマンションで、三々五々入口前に少々興奮気味の選手たちが揃う。

黒髪を短く刈り、深い瞳の緑のジャージを着た朴訥とした青年たちがひとりづつ中村氏と健闘を称える握手をし、深夜である時間帯を気にしてか話し声も小声に行儀よくマンションに入っていく。

『フットサル』というマイナースポーツで彼らは繋がっている。

監督と選手という言葉で彼らの関係を表すことは勿論できるが、母国を離れて異国に渡り、自分たちの成長を促すために時間を使い、経験を伝えてくれる異邦人にどれだけの敬意を払っているかは彼らの振る舞いを見ればよくわかる。

『国際貢献』という言葉は定量的にお金や物品を提供することと考えられがちだが、ウィークリーマンションの前の光景には何億円よりも重い説得力があった。

深夜1時。
予定がつく11/23(水)のすみだ戦と、11/26(土)のファイル戦を見に行くことに決めた。

彼らを無性に応援したくなった。

※続きます 2016/11/23(水) 国際親善試合 郷土の森府中市立総合体育館 『外国人の視点』

DSCN5682
施設の外でアップをするトルクメニスタン代表
DSCN5683
DSCN5711
DSCN5702
DSCN5712
アップ中の選手たちと見つめる中村恭平トルクメニスタン代表監督。
非常にお茶目な好々爺といったトルクメニスタンのドクターがアジアの強国、日本のフットサル選手をパシャリ。
DSCN5708
書かれているスペイン語がかすれたレガース。
彼らの練習の跡が伺える。
DSCN5723
DSCN5742
DSCN5753
DSCN5755
DSCN5766
DSCN5775
DSCN5779
戦術面は前川義信コーチがボードを駆使して指示。
試合前のモチベーションを中村監督が鼓舞する。
DSCN5746
DSCN5747
ドリブル突破でトルクメニスタンの攻撃を牽引した10番と、得点能力の高い7番。
次に見るのはアジアインドアゲームでのトルクメニスタンの躍進のニュースと共にか。

DSCN5785
DSCN5789
DSCN5791
DSCN5792
DSCN5793
DSCN5794
DSCN5799
 トレーニングマッチ終了後は全員で握手と記念撮影。
マイナースポーツであるフットサルが果たせる国際交流を考えさせられた少し不思議な光景。