2017/3/20(月・祝)第22回全日本フットサル選手権大会 国立代々木競技場第一体育館
◆3位決定戦
府中アスレティックFC 1 - 0 デウソン神戸
◆決勝
フウガドールすみだ 2 - 7 シュライカー大阪

古い話題だが2007年に賞金女王に輝いた上田桃子選手がTVのドキュメンタリー番組でプロとしてお金を稼げないスポーツを選択することを不思議だと発言したことがある。
 
人気も実績もない選手でなければ大した話題にもならないだろうが、当時の若手女子ゴルファーブーム真っ只中で年間1億6千万円を稼いだ若干21歳の賞金女王の発言として非常にヘイトを集め有体に言って炎上した。

他者と競い、結果に応じた報酬を得ることはごく普通なことで、成り上がりの波に乗る野心的な若者の発言として至極もっともだと思ったが、こういった発言は理屈よりも受け手の感情が優先される。
彼女が言うところの稼げないスポーツを愛好する人達からのやっかみや、ゴルフを稼げるスポーツとした先人へのリスペクトが欠けているというのが当時の論調だったと思うが、要するに『勝者として空気を読め』ということだろう。

貧すれば鈍する(貧しさによる生活苦が才気や高潔さを奪う)という言葉がある。
スポットライトが当たる前の下積みは誰にでもあるが、美談としてそこにフォーカスが当たるのは成功した後だ。
スポーツに限らず不安で暗い鍛錬の時期を越えた勝者が賞賛や利益を得るのはむしろあってほしいことで、トップランナーは後進の励みのためにも頂点に立った自己肯定感を大いに表現してほしいと思う。


22回を迎えたプロ・アマ混合トーナメントの全日本選手権はシュライカー大阪の優勝で終わった。

決勝トーナメントの8試合中、大阪以外の試合はどれも1点差のゲームで今期中盤からの大阪のクオリティーはズバ抜けていたと思う。
 
開幕以来9連覇中の唯一のプロチームである名古屋が敗れたものの、大阪の構成も名古屋と同じく違いを作れる外国人選手+脇を締める代表クラスの日本人選手という構成で、歴史が変わったと表現される今期の王位継承劇だったがプロセスは木暮監督自身が選手時代に名古屋で体験したメソッドに沿ったもので、これが日本のトップリーグで優勝するチームのモデルケースなのかなというのがシーズンを振り返ってみての印象だ(実際に引退を宣言した最後の全日本決勝トーナメントの3試合で木暮監督は出場機会を与えられていない)。

2013年の全日本決勝(すみだ4-4(PK3-4)名古屋)ではPK戦でゴールを決めた後に名古屋のリカルジーニョがすみだのサポーター席に挑発的に拳を突き立て、今年は2-0から同点になる第2PKを決めたアルトゥールがすみだのベンチの前で派手なガッツポーズを見せた。

どちらも憎々しげな行為だが、地力は劣るもののゾンビのようなしつこさや異様なテンションで会場の雰囲気をがっちりすみだに掴まれた苦しい展開の裏返しでもあり、ワールドクラスの相手をここまでいきり立たせたのは大したものだろう。

特にアルトゥールとチアゴの活躍が光った決勝戦だったが、彼らを越えるためにどうすればいいかを対戦相手もチームメイトも考えることに意義がある。
来シーズンも文字通り日本フットサル界のドデカイ目標になれる選手が日本に来てくれたことにありがとうと言いたい。

大会の前後に選手の退団・引退のリリースがあり、勝っても負けてもセンチメンタルな雰囲気が漂う全日本。

甲斐選手、鈴村選手、小宮山選手らの記憶にも記録にも残る黎明期からトップランナーでありつづけたベテラン達のカーテンコールは惜しむらくも祝福する気持ちにもなるが、若干21歳、大学3年生でFリーグ、全日本優勝の2冠を飾った大阪に所属する水上洋人選手の引退は衝撃だった。

2015年のプレーオフで加藤未渚実選手、田村友貴選手と共に頭角を現し、今シーズンは日本代表候補にノミネートされた前述のふたりと水をあけられた感はあるが、技術が高く冷静で真面目な大阪らしいアラとして非常にポテンシャルを感じる若手で、来期の契約のオファーもあったという。

こちらは木暮監督と水上選手のインタビューだが、トップリーグでの競技生活から一線を引いた後は大学4年生として就職活動を行うということで、ケガでも能力的な壁でも燃えつきでもなく、キャリアのピークを今後迎えるであろうアスリートが安定した生活のために下した決断は正直言葉に詰まるものがあるし、フットサル黎明期からジャンルのアイコンだった木暮監督が『このスポーツにかける思いがないとまずはスタートラインには立てない』と語るようにマイナースポーツであるフットサルを取り巻く環境は22年前と本質はほとんど変わっていないのではと思ってしまった。

スポーツは麻薬だ。

キツイ練習に耐え、タフなチームメイトと競って出場枠を掴み、同じ過程を越えてきたであろう対戦相手とシノギを削る。
そんな中、自分を応援してくれる人達の前であげるゴールや勝利は格別だろう。

そんな快感にズブズブと嵌ってマイナースポーツ故の狭いムラ社会の中で苦心するよりは、普通の会社に就職して趣味でフットサルをするほうが賢い付き合い方かもしれないし、普通の会社勤めをして土日と周りの顔色を伺いつつ有給休暇を使ってフットサル観戦をしている自分にも現場の温度感はなんとなくだがわかるものはある。

来シーズンのFリーグはセントラルの代替として6チームを1会場に集めて2日間連続の大会方式を何節か入れるという発表があった。
宿泊費と移動費の負担が全国リーグで最も大きな費用になるが、大幅な収入増を見込めない以上、支出を減らすのは理に適った施策でこういうアイディアはどんどん実践してほしい。

運営は費用を極力減らす。
ファンは行ける範囲で会場に足を運ぶ。

入場料(グッズ収入を含む)、放映権料、スポンサー収入が主な財源となるプロスポーツだが、後者の2つが大きく見込めない以上、ファンができることは会場に足を運んで、よさそうなグッズがあったら買うことぐらいだろうし、もちろん自分もそうする。
ごくごく小さいことだが自分が落したお金が選手や関係者の環境の改善になってくれたらこれ以上に嬉しいことはない。

何度か『Fリーグを目指したいけどどうしようか迷っている』という相談を受けたことがある。

地域リーグを含めた選手のインタビュー記事などを紹介し、いくつかのモデルケースを説明したがみな普通に就職した。
いい選択なのではと思う。

同じ顔ぶれの選手たちが時にチームを変えつつ活躍してきたFリーグ。
黎明期のアイコン達が去ったものの、次のチームの顔と呼べる選手は育っていないのではないだろうか。

マイナースポーツのトップリーグが『憧れだけど現実的に目指すにはリスクが高いもの』というのはありがちだ。
否定はできないし、そんな世界が魅力的かどうかは人それぞれだし、各自が考える価値感を100%尊重する。

大会の前後に選手の退団・引退のリリースがあり、勝っても負けてもセンチメンタルな雰囲気が漂う全日本。

トップリーグに所属し、最強のチームでベンチ入りの枠を掴み、ビックタイトルを獲得する。
 
競技者として最高の自己肯定感を得られるシチュエーションで、競技者として本意でないであろう引退の涙を流す若者の姿を見るのはとても切なく、胸にくるものがあった。
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今期で引退を表明した神戸の闘将鈴村選手と、献身的なアラとして出場時間を延ばした若手の川那部選手。
準々決勝の浦安戦では貴重な3点目をゲットしベスト4に貢献。
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出場時間に恵まれなかった府中の若手、岡山選手と水田選手は全日本でブレイク。
大分戦での右サイドからのダブルタッチ→トゥーでの強烈な一撃がインパクト絶大な水田選手は移籍先でコンスタントな活躍を狙う。
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3位に輝いた府中。
キャプテン皆本がメガホンを手に締めの一言。
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決勝に進んだ大阪とすみだ。
久々に見たすみだの円陣。Fリーグでもまたやってほしい。
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開始早々に大阪から2点を奪った諸江/宮崎/清水/西谷のすみだの1stセット。
素早い揺さぶりと果敢なプレスで先制パンチを浴びせるも、後半は地力のある大阪になすすべなし。
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大阪の強力な縦のライン。
半径2メートル以内は俺の制空権と言わんばかりの存在感のアルトゥールと、縦パスをことごとく収めてゴールに突進するピヴォのチアゴ。
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試合前、試合後の水上選手。
才能のある選手が挑戦しがいのある舞台であるか、という問いかけに答えが出ない。