2017/7/20~30 AFCフットサルクラブ選手権 プートースタジアム(ベトナム/ホーチミン)
◆準々決勝
チョンブリ・ブルーウェーブ(タイ) 4-2 シュライカー大阪(日本)

※大会の結果は以下

2011年の第1回から7回目となったAFC。
2013年に優勝したチョンブリ(タイ)を除き、これまでは決勝トーナメントでイラン勢vs日本(正確には6回連続Fリーグを制して出場していた名古屋オーシャンズ)の勝者が優勝していた同大会だが、今回は前述した2013年以来、チョンブリが2度目の優勝を遂げた。

国内国外で強化試合を積極的に行い、2012年、2016年のワールドカップで2大会連続で決勝トーナメントに進出。
12,000人収容のバンコクアリーナで行われる代表戦では会場が満員になるなど、実力、人気ともタイの躍進は目覚ましい。

同じことは同東南アジア地区のベトナムにも言え、今回AFCに出場したタイソンナムはベトナム勢最高の3位に輝き、4,000人収容のプートースタジアムは入場制限がかかるほどの観客が押し寄せ、他にも今大会初出場で嬉しい1勝を挙げたインドネシアのバモスFC、地元タイソンナムに4-5で勝利し、2勝1敗の好成績を挙げたFCエレム(キルギス。得失点差で決勝トーナメント進出はならず)、ウズベキスタンの強豪アルマリックを降して決勝トーナメントに進出したベイルートFC(レバノン)など、新興勢力の台頭が非常に目立った。

対してこれまで強豪の一角を占めていたウズベキスタン(前述したアルマリック。予選リーグ敗退)、日本(今年はシュライカー大阪が出場。準々決勝で優勝したチョンブリに敗戦)の成績は少々物足りなかったが、直近の2016年ワールドカップで決勝トーナメントに3か国(イラン/タイ/ベトナム)が進出し、イランが3位に輝くなどアジア全体のレベルアップは顕著で、アジア黄金時代と言ってもいい環境で切磋琢磨できることは歓迎すべきだろう。

代表、クラブチームを問わず、イラン、タイ、ベトナムら結果を出している国の強化スケジュールは非常に充実していて、優勝したタイのチョンブリも相性の悪い日本勢を想定して腕試しの日本遠征を行い、府中、町田らのFリーグ勢とトレーニングマッチを行っており(日程的な問題もあるが大阪は同様の施策はなく、もう少しリーグが協力してもいいのではと思う)、代表では2001年から定期的に開催されているAFF(東南アジア+オーストラリアを交えた地域大会)がタイをはじめとした東南アジア勢の強化に繋がっているのは間違いない。
フットサル弱小国の韓国/中国らと隣接する東アジアの日本は外に出ていかなければ腕試しの機会はなく、国内リーグとの連携が必要になる代表の強化だが、2014年以降目立った強化遠征を行えていない。

現状との対比になるが、日本代表がイランと並んでアジアの2強と言われていた2014年以前は積極的に強豪たちと国際大会で真剣試合を行っており、以下は2013年~2014年に参加した大会の一例だ。

グランプリ・デ・フットサル(2013年10月。ブラジル/イラン/アルゼンチン/セルビアと対戦。ブラジルは2012年W杯優勝。アルゼンチンは2016年W杯優勝。イランは同3位。4戦全敗もアルゼンチンとは試合終了間際まで同点で1-2の惜敗)
国際フットサルトーナメント(2013年11月。ベトナムで開催されタイ/ベトナム/ブラジルと対戦。ブラジルとは1-2で惜敗)
コンチネンタルカップ(2014年10月。カタールで開催されブラジル/チェコ/グアテマラと対戦。グアテマラ戦で決めた室田選手のヒールリフトでのゴールがYoutubeの再生回数が約2,200,000回とバズる)

ワクワクする国名が並ぶ大会が揃っているがこれはたった3~4年前の出来事で、2015年以降はFリーグの合間を縫っての代表合宿とトレーニングマッチという実戦とは程遠い型稽古がほとんどだ。

身も蓋もない結論になるが、近年の日本の凋落は新興/熟成したアジア各国と経験値が相対的に逆転したからで、日本に必要なのはフットサル先進国のスペイン人指導者よりも、稽古→出稽古→真剣勝負のサイクルを愚直に積み重ねるための予算とスケジュールだ。
ここをサッカー協会から引っ張ってこれる営業マンが日本フットサル界復興の功労者になるだろう。


AFC自体は7/30に閉幕したが、8/7にBS-NHKで優勝したチョンブリと準々決勝で対戦したシュライカー大阪の木暮監督が解説するという興味深い放送があった。

タイらしい鋭いカウンターと、引いた相手をライン間の揺さ振りやピヴォとフィクソのスイッチで崩す攻撃の選択肢が多彩なチョンブリ相手では大阪は引いてカウンター、もしくはゴールに近い位置で得たセットプレーをアルトゥールの存在感を活かした一撃で得点し守り勝つというのが選手の質・量ともに劣る大阪の現実的なプランだと考えていたが木暮監督は前からのプレスを選択。

結果的にカウンターからの1VS1で先制点を奪われ(若干の不運はある)、プレスが遅れたところを裏に通されて2点目、底からの繋ぎに入ったゴレイロのミスで3-0(このミスは残念だったが柿原選手が要所で見せたダブルニーでのブロックは素晴らしかった)とされ、パワープレーで3-2と追い上げるも、最後はサポートが遅れてパスコースが無くなった隙をダブルチームで詰めたチョンブリのブラジル人助っ人のシャパがアルトゥールからボールを掻っ攫ってパワープレー返しを決め、4-2で試合は終わった。

前半途中までは大阪がプレスで主導権を握る時間もあったが、フィニッシュに工夫と精度が乏しく、目が慣れたチョンブリが選手の質と量を活かしてチャンスをシッカリ決めて試合を進めた横綱相撲というのが個人的な印象で、大阪目線で見れば作戦が裏目に出た上に、不運とミスが重なった思い通りにならないゲームの典型のような一戦だったが、敗戦にこそ学ぶものも多いだろう。

一戦で活躍する指導者や選手にとって糧となる言葉があったかはわからないが一般のファンとしては、

①4人1セットではなく、1人づつ交代させる意義
→4人で作ったゲームの流れを維持する(セット交換は新しいゲームが始まるイメージでゲームの連続性を大事にする)

②チョンブリ戦で前プレを選択した理由
→チョンブリはカウンターと仕掛けを高精度で持つ攻撃的な先行逃げ切りを得意とするチームなので、前から圧力をかけて先制点を奪って主導権を握り相手のカウンターの選択肢を奪いたかった

③ハーフタイムの指示
→感情面を含めた前半の分析/整理/リセット(ミスが出て残念だということにも言及)、パワープレー開始時の認識合わせ(タイムアウトを取らずにPPに移行して相手に備えの手を打たせない)。

④PPでの攻め方/守り方
→1-2-1と2-2守備の場合の狙い所(前者はコーナー角に入れての戻しorフィニッシュ、後者はライン間に入れての展開。大阪の2点はその形がズバリと嵌る)。
→得点が4-2になってからの配置替え(底でのハンドラーのアルトゥールへのプレスが厳しくなったのを見て、左利きの今井の位置を下げてサポート)

あたりがなかなか興味深かった。

史上最高の日本代表という肩書きでワールドカップの出場権を賭けて挑んだ2016年のAFCで惨敗後、当時の日本代表監督のミゲル・ロドリゴは敗戦の理由を『わからない』で片付け、解任から半年後にタイ代表を率いてワールドカップに出場してベスト16の好成績を達成し、今でも日本でTV出演や、それに合わせての講演/クリニックを行っている。

日本はなんだかんだで世論や人気が重要視される社会で、説明責任の声が挙がらなければ自分の価値が下がる恐れのある敗因分析をする必要もないし、失敗のケジメを取らなくても人気者なら仕事のオファーが来る。

『正しくフットサルをプレーすればiPhone3からiPhone7のような(プレースキルやフットボールIQの)バージョンアップができる』とキャッチーな表現で語ったり、2003年に指揮を執ったディナモ・モスクワ(ロシア。同年にリーグとカップ戦の2冠)以外でトップチームでの監督経験がないのに『世界で5指に入る指導者』と相手監督が語ったりするミゲルのブランディングは正直お見事だったが、タシュケントでの敗戦から1年が経って感じるのは言葉の裏にある中身や責任感のハリボテ感だ。

初の決勝トーナメント進出を果たした2012年のワールドカップ、2012年/2014年のAFC連覇など素晴らしい成果もあったが、つけるべきケジメを付けず、業界の共有財産になるべき敗因の研究を放棄したことはジャンルのトップとしての資質を疑うもので、個人的にはもう日本に絡んでほしくない。

今シーズンからはじまったAbemaTVでのFリーグ中継を担当する名古屋オーシャンズの黄金期を支えた北原亘氏の競技知識とウンチクに富んだ解説が面白いと話題だが、逆説的に言えばそれだけフットサルの見方に関するコンテンツがなく、ナレッジがファンの間で育ってないということでもあると思う。
今回のAFCの敗戦を木暮監督が解説俺でお送りする姿勢は一般層への競技の理解、一線の選手/指導者への生きた経験の共有として非常に立派なものだ。

会場で選手を捕まえたり、クリニックに参加してツーショット写真を撮ってSNSにアップするのもご時世だなと思うが、競技そのものの魅力を伝えるコンテンツも絶対に必要だろうし、世論と人気が先行した(正しくは説明責任を放棄できる時点で世論は存在しない)ハリボテ気味の日本フットサル界がもう一度地力を取り戻すには競技を理解したうえで世論を起こせる目が必要になるはずだ。

ブラジルトリオを中心に沿えた大阪にとって、アジア圏以外の選手1名/自国以外のアジア圏選手1名のみしか登録が認められないAFCでのベスト8敗退は十分予見できたものだろう。

結果は残念だったが戦力に劣るチームで勝機を探り、受ける必要のない公開復習を堂々とこなした木暮監督の姿勢は賞賛されるべきものだ。
今シーズンは同じく強力なブラジルトリオを揃える名古屋との熾烈な一騎打ちになるだろうが、ぜひ来年リベンジを果たしてもらいたい。

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ベトナムフットサルのメッカ。
ホーチミンの中心地からタクシーで2~30分ほどのプートースタジアム。
ベトナム代表選手が多く所属するタイソンナムの試合は4,000人超満員。
ちなみに名古屋で開催されたAFCで最も観客が入った試合はシンセン(中国)との3位決定戦で1,398人

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こちらはタイのバンコクフットサルアリーナ(写真は2016年のタイランド5)。
タイ代表の試合には12,000人の観客が集まりヤンヤの大熱狂。
どちらのスタジアムも雨漏りゾーンがあるのが玉に傷だが、東南アジアのフットサル熱を表現するアイコン的な存在。