2018/2/1~2/11 AFCフットサル選手権 台湾 新北市立新荘体育館『雪辱のAFC』
◆決勝戦
◆決勝戦
日本 0 - 4 イラン
◆3位決定戦
イラク 4 - 4 (PK 1 - 2) ウズベキスタン
2018年アジアフットサル選手権。
ワールドカップ予選を兼ねた惨敗から2年が過ぎ、その後たいした代表活動もなく迎えたリベンジの舞台だったが、結果は決勝戦で世界3位のイランに敗れて準優勝という充実の結果に終わった。
◆2018年AFC結果
3位:ウズベキスタン
4位:イラク
直前に行われた世界王者のアルゼンチンとの親善試合2戦から、AFCグループリーグ⇒決勝までの6戦について各選手の出場時間を記録した。
今回は出場時間をベースに選手起用の意図と試合が進むにつれての変遷、そこから見えてきた評価と今後の課題についてまとめようと思う。
以下はアルゼンチンとの2戦の出場時間で、FPの数字は得点/ゴレイロの数字は失点/PPはパワープレー/PPDはパワープレーのディフェンスを指す。
出場時間上位3名を赤字、上位4~8名を緑字で着色しており、上位3名が複数いる場合は4~8名の範囲から重複分を減算(2戦目)、8位が複数いる場合は全員を8位(1戦目)として着色している。
Fリーグのプレーオフから4日後&今後の連戦も考え、
・AFCのレギュレーションである14人のメンバー枠をGK2人/FP12人に振り分け、3-1でピヴォを置くシステム×3セットで負荷を分担
・軸になる吉川/逸見/森岡/西谷を引っ張りつつも万遍なく選手を起用
という考えが見て取れる。
以下はアルゼンチン戦で試行したベースを元にAFCに挑んだ6戦の変遷だ。
各試合を見るのが面倒な方は最後にある全試合のサマリだけ見てほしい。
全試合のサマリは出場時間の赤/緑の着色と合わせて、グループリーグ3戦と決勝トーナメント3戦を比較。
UP/DOWN率列は出場時間の伸び/減少をパーセンテージで表し、20%以上の増を赤、減を青で着色している。
この数字をベースに6戦の推移をまとめるとこうなるのではないだろうか。
A.アルゼンチン戦から組み合わせを変えつつ試行していた3セットは3戦目のウズベキスタン戦で解体
B.『清水/室田/吉川/齋藤』と『森岡/逸見/西谷/滝田』の2セットへ移行
C.直近のリーグ戦でのパフォーマンスと出場時間がリンク
⇒コンディショニングに問題があり、大会期間中に上がらない選手は一定数存在する(仁部屋/渡邉)。
今シーズン、コンディション不良で出遅れてから波に乗れずに終わった仁部屋選手は今大会でも目立った活躍はできず。
Fリーグ得点王の渡邉選手はコンディションと合わせて、プレスやディフェンスを重視するチームで戦術的に活かしどころが難しかったか。
D.齋藤の出場時間減と皆本の出場時間増
⇒左利きでフィジカルのあるフィクソとして齋藤選手を抜擢したが、守備の弱さから起用は限定的。代わりに解体された3セット目から皆本選手が出場時間を伸ばした。
Cの目線だと皆本の調子は良かったが出場時間に恵まれなかった、もしくは尻上がりに調子を上げることができた。
決勝戦で大会得点王のイランのタイエビを抑える皆本選手。
大舞台が大好きなメンタルを活かして決勝トーナメント以降はコンスタントに力を発揮。
同じく解体セットから抜擢された星選手。
本職はピヴォだが体の強さを生かしてアラ/フィクソを兼任し、決勝戦ではピヴォとして前線で張るなど、意外なマルチロールでチームに貢献。
E.ピヴォの出場時間漸減。アラの出場時間増
⇒グループリーグと決勝トーナメントを比較し、出場時間が増えたピヴォの選手(森岡/清水/渡邊(星選手はアラとしての起用が多かった))はなし。
数字としては日本人選手のクオリティーはアラ>ピヴォの構図になるが、点の取り合いのシーソーゲームになったグループリーグでは得点を狙うためにピヴォを多く起用。
決勝トーナメント(バーレーン、イラク戦)は先制して相手を抑えるゲーム展開になったためプレスに長けたアラやフィクソを多く起用という意図が見える(森岡減/西谷、皆本、滝田増が一例)。
出場時間は試合ごとに減った(イラン戦は5分間パワープレーがあったため実質の出場は10分程度)が、ここぞの場面での得点力はさすがの森岡選手。
F.セットの流動性
⇒完全分業制のチームなら2セット8名のみが試合に出場ということもありうる競技だが、2セットのみで戦うのがベストというわけではもちろんない。
ただ、ベースの4人+オプション数名というのが成熟したチームというのは多くの人たちの経験則から割り出せるセオリーだろう。
単純に数字だけを見るなら『選手の特性を把握できず(あるいはコンディション差が大きい)メンバーを固定できなかった』『当意即妙に自信あり』の解釈ができる。
いずれにしろフットサルでは監督が試合に介入できるのは選手交代とタイムアウトくらいだ。
AFCで見えた輪郭をしっかり磨いて2年後のAFCとワールドカップに向かってほしい。
『とにかくプレス!!』が主戦術になったイラン戦以外は意図した選手起用が上手くいったブルーノ・ジャパン。
2セットか3セットかは今後の彼我戦力差次第になりそうだ。
今回は各ポジションの評価と今後の課題についてまとめようと思う。
①ピヴォ(森岡/星/清水/渡邊):世代交代
出場時間を管理しやすいフットサル。
年齢で選手を判断するのはナンセンスというのが自分の考えだが、エースピヴォ森岡選手の後継者探しに着手する必要は間違いなくあるだろう。
彼に関するインタビューで印象的だったのが『(帰化前は森岡選手も外国人扱いでメンバー入り3人/同時出場2人の外国人枠の対象)毎年ヤバい外国人とのメンバー争いをする中で、盗めるものはとにかく盗んでいった』という趣旨のものだ。
フィジカルとテンションで日本を追い詰めた韓国を相手に挙げた4得点は圧巻で、使いドコロを絞れば日本最高の爆発力をまだ持っているのは間違いなく、名古屋には彼と同タイプのピヴォがいなかった(残念だが現所属の町田にもいない)ことを考えると、日本代表合宿で森岡選手から諸々の武器を盗める後継者候補をドンドン招集するべきだろう。
トップコンテンダーは今回のAFCにも出場し、コンスタントにシーズン20ゴールを挙げている21歳の清水(すみだ)になるが、
左利き&サッカーで鳴らしたフィジカルを持つ小門選手(湘南)や、130kmの右シュートだけでなく柔の感性も備える大園選手(すみだ)、下位に沈む仙台で印象的なゴールを挙げている堀内選手(仙台)をゼヒ試してみてほしい。
小門選手と堀内選手のマッチアップ。
清水選手の裏セットで番を張れる次世代ピヴォの育成は急務だ。
②アラ(室田/吉川/逸見/仁部屋/西谷):献身的な働きは◎/ゴールの少なさは△
吉川選手(122分)/逸見選手(117分)/西谷選手(105分)とAFCでの出場時間トップ3を占めたプレスも仕掛けもゲームコントロールもできる日本のアラ勢だが、彼らの得点は西谷選手の2得点が最高で室田/仁部屋選手が1得点を上げたのみ。
基本的には3-1でピヴォを置き、ハーフライン以上からのプレスのシステムを採用しており、ピヴォ当て後のシュートやショートカウンターでの数的優位を活かしたゴールの少なさに物足りなさが残った。
室田選手や逸見選手の仕掛けは攻め手として有効なカードだったし、吉川選手の献身的なプレスは感動的ですらあったが、才人が集まったポジションなだけに数字として試合を決めるプレーをアラには求めたい。
吉川/逸見/西谷選手のアラ3傑。
出場時間、出場中のクオリティともチームの原動力になる活躍は素晴らしかったが、素晴らしいからこそもっと期待したい。
ラインギリギリのボールにチャレンジしてゴールに繋げる猟犬のようなプレーが出色な中井選手(町田)。
海外勢相手のガッツキを見てみたい。
AFCの登録メンバーからは漏れ、アルゼンチン戦でも僅か1分の出場に終わったが、プレーオフで名手イゴールの逆を突くミドルシュートを決めた抜け目のない加藤選手(大阪)にはゼヒチャンスをあげてほしい。
海外勢相手のガッツキを見てみたい。
AFCの登録メンバーからは漏れ、アルゼンチン戦でも僅か1分の出場に終わったが、プレーオフで名手イゴールの逆を突くミドルシュートを決めた抜け目のない加藤選手(大阪)にはゼヒチャンスをあげてほしい。
③フィクソ(齋藤/皆本/滝田):求むガテン系
昨年のアジアインドアゲームズ以降、本来攻撃的なポジションを主戦場にする齋藤選手が左利き&フィジカルを利点としてフィクソにコンバートして起用されている。
ディフェンスのみで務まるポジションではないが、中央アジア、中東の分厚い体を持つ面々に対して守備に不安があったのは出場時間を見ても明らかだろう。
齋藤選手に限った話ではないが、フットサルとしてレベルは低いもののジャイアントキリングの熱意を持ち、フィジカルとテンション任せの肉弾戦に思わぬ苦戦を喫したタジキスタン戦、韓国戦では、ショルダーチャージ一発で相手を黙らせられる選手の不在に非常にやきもきした。
フットサルIQの高いのウズベキスタンや、決勝トーナメントで対戦したイラク、イランなどフットサルの体を成す相手ならゲームメーカータイプのフィクソも力を発揮しやすいだろうが、玉石混合のアジア、ひいては世界との戦では丸太を担いで城門にブチ当たるようなガテン系フィクソも大いに戦力になる。
2016年にAFCを制する原動力になった星龍太選手、安藤選手(両名古屋。攻撃力も○)、2017年にAFCに出場した田村選手(大阪。ちなみに左利きのため利き足の利点を補完可能)あたりの武闘派フィクソをゼヒ試してみてほしい。
3選手ともディフェンスだけを求められるチームでプレーしているわけではないので、ガルシア監督のメガネに適う活躍はできるだろう。
押せや掴めやのゴール前で必死に相手ピヴォを抑えるフィクソの滝田選手。
相手を黙らせたい局面では汚れ仕事を引き受けられる選手を常に1人は出しておきたい。
④ゴレイロ(関口/イゴール):川原選手引退以降の本命不在
2014年AFC決勝でイラン相手のPK戦ストップで優勝の立役者になった関口選手が代表の正ゴレイロの座を引き寄せたかに見えたが、イゴール選手の帰化、クラブでの篠田選手との併用もあり守護神レースは混戦模様。
ミゲル・ロドリゴ元日本代表監督や、各国の助っ人外国人がハイレベルと評する日本のゴレイロだが、10年近く日本の正守護神を務めた川原選手引退以降続く本命不在は『ハイレベル』よりも『どんぐりの背比べ』と考えたほうが適当かもしれない。
今大会では韓国戦の後半以外を37歳のイゴール選手が守ったが、今大会は試合序盤のミスが目立ち、また年々ケガやコンディション不良が増えている。
決勝戦では彼の相手陣角を狙ったスローで好リズムを演出。
韓国戦後半のみの出場だったが、驚異のテンションで食い下がる相手のシュートを冷静に捌いた。
2014年以降に関口選手の経験を積む場面が少なかったのも大きな誤算。
個人的にはサイズと柔軟性を武器に前に出る判断が抜群の矢澤選手(すみだ)を推すが、どの大会を目指して誰に期待するのかを逆算し、数少ない代表戦の経験値の振り分けを熟考すべきだろう。
⑤監督・コーチングスタッフ:満点に近い準優勝と木暮ビデオ担当
極小の準備期間で地味強ウズベキスタンと同組のグループリーグを首位通過し、決勝戦でイランに敗れての準優勝は破格の結果は満点に近い90点をあげたい。
一時は小森通訳がゴールキーパーコーチを兼任する極貧体制もあったが、
監督:ブルーノ ガルシア
コーチ:鈴木 隆二/木暮賢一郎
GKコーチ:内山 慶太郎
フィジカルコーチ:下地 達朗
と超充実の陣容になった。
残念だったのが日本フットサル界のアイコンともいえる木暮コーチが、大会中ベンチ入りをせず観客席から試合のビデオ撮影をしていた点で、当意即妙に長けた智嚢をスタンドに置いていたのは非常に残念だった。
GKコーチに木暮氏と同じくスペインで活躍した経験のある内山氏、大阪監督時に一緒に仕事をした下地氏がフィジカルコーチに入ったことから、木暮氏の次期日本代表監督の線は濃厚だろう。
GKコーチに木暮氏と同じくスペインで活躍した経験のある内山氏、大阪監督時に一緒に仕事をした下地氏がフィジカルコーチに入ったことから、木暮氏の次期日本代表監督の線は濃厚だろう。
コーチ1年生として目で見て勉強などではなく、大阪時代と同様、オラついて指示を出す勝負師の風を吹かしてほしい。
フル代表での大会の出場は前回のAFC以来2年ぶりで、結果はイランに敗れての準優勝に終わったが、各選手とも表情には悔しさと充実感があり、世界3位に達したライバルとの距離感から自分の立ち位置を再認識できたのではないだろうか。
2014年以降の活動回数激減の状況を見ると難しいかもしれないが、ガラパコス化しがちな日本フットサル界の実力を確認する場を多く作ってほしいものだ。