2012/11/18 フットサルワールドカップ2012 決勝 フアマークインドアスタジアム
スペイン 2 - 3 ブラジル2000年決勝。
2004年準決勝。
2008年決勝。
ワールドカップで3度激突し、勝利したチームがワールドカップを掲げているスペインとブラジル。
長年に渡って世界のフットサルをリードする両国が大方の予想通り2012年も決勝戦で激突した。
世界各国の観客でごった返す満員のフアマーク・インドアスタジアム。
ひとりのサポーターがブラジルのコールをすると、やがて大きな波になって会場に伝播していく。
これからスゴイことが始まるという感覚で胸が高鳴った。
試合はスペインの前プレ&ピボを置く作戦が奏功。
出足のいいプレスでブラジルのパスワークを寸断し、準決勝でオフェンスの起点になり続けたフェルナンダウは今日もピタリと前線でパスを収める。
モダンなフットサルを展開するスペインに対し、ひたすら凌ぐブラジル。
劣勢の前半終了間際に、ブラジルサポーターからこれまで出番の無かったフットサル界のトップスター、ファルカンの出場を促すコールがあがる。
顔色の悪くなる仲間たちを尻目に、アップスペースに佇むファルカンが不敵に微笑んだ気がした。
2012年ワールドカップ、最後のハーフタイム。
どこからか起こったウェーブが3回楕円形のアリーナを周る。
タイに来て9日間、日本、ポルトガル、ロシア、イタリア、コロンビア。そしてスペインとブラジル。
勝つことに貧欲で、フットサルが好きで、試合をとことん楽しむ。
各国にスタイルの違いはあれど、素晴らしいチームの熱い試合を観た。
あと1時間もかからず世界最強が決まる。
権利を持ってるのはスペインとブラジルだけ。
センチメンタルよりも、これがワールドカップなんだってとても嬉しい気持ちになった。
後半。
満を持してスタートからファルカンがフロアに立つ。
彼がピッチに入るだけで観客のボルテージが上がり、ブラジルの選手にも余裕が戻る。
前半やりたい放題だったスペインの選手にも緊張が走った。
ここから試合が動いていく。
後半24分。
コーナーからの単純な落としにネトが左足を振り抜きブラジル先制。
5分後、フリーキックの跳ね返りをトーラスが押し込んでスペインが同点に追いつき、その直後、左サイドからの単純なチョンドンでスペインが逆転。
後半10分までに生まれた3点はシュートのきっかけになるミスや、シュート時のブロックの遅れが招いたもので、ポルトガル対イタリア戦のリカルジーニョのようなファンタスティックなゴールではない。
どれも一般のワンデー大会でありそうなありふれたゴールだが、世界最高の一戦だからこそ細かいディティールのズレを突いたゴールしか決まらない。
満員の観客が見つめる中、世界一緻密なミスの潰し合いをすることで彼らは決勝戦を表現していた。
1点リードで逃げ切りを計るスペインに対し、ブラジルは残り5分からパワープレーを開始する。
ロシア、イタリアのパワープレーを跳ね返してきたスペイン。
さすがのブラジルも厳しいだろうと思った。
ブラジルの中核を成す77年組の苦悩を考える。
ベテランゆえ結果が出なければ、若手待望論がおこり、年齢による限界を囁かれる。
2000年、2004年大会から一線を支えてきた彼らは、他の代表を狙う選手だけでなく、これまで栄光を勝ち取ってきたキャリアベストの自分との競争をも常に強いられている。
想像もできないほど孤独な戦いを続ける彼らのプレッシャーはどれくらいのものだろう。
だが、それでも彼らは勝ち続けてきた。
その事実が彼らの今を支えているはずで、4年間の物語を締めくくる5分間という刹那に彼らはそれを証明しようとしている。
スペインのフィールドプレーヤー4人を楕円に囲み、ブラジルが外郭でパスを回す。
オーソドックスなパワープレーでは、外側で相手のマークのズレが出るまでパスを回し、コーナーに配置した選手へのパスをスイッチに、逆サイドから中央への飛び込みや、戻してのシュートでフィニッシュを作るのがセオリーだ。
パワープレーをはじめて間もなく、第2PK外やや右にポジションを取るファルカンに左サイドからパスが入る。
77年生まれの1人、フットサルの神様と言われるファルカンも35歳。
おそらく最後のワールドカップになる今大会、初戦の日本戦で負傷退場し、ビハインドを背負った準々決勝のアルゼンチン戦で復帰すると起死回生のプレイを見せ、ブラジルの窮地を救う。
常に自信たっぷりに厚みのある体躯を反らすファルカンだが、ドラマチックな復活劇で王国の窮地を救ったアルゼンチン戦での彼の目には、普段の彼からは想像できない涙が浮かんでいた。
左足裏でボールを支配する。
相手にマークのズレはなく、スペースの開いている右サイドに振るのかと誰もが思った瞬間、そのまま左足を一閃。
アリーナにいる全ての人を欺いたファルカンのミドルシュートがスペインゴールに突き刺さった。
大きく揺れるスタンドに向かってゆっくりと歩き、自信たっぷりに両手を広げて喝采を要求し、その後、手を合わせて頭を下げるタイの伝統的な挨拶『ワイ』のポーズで応えるファルカン。
そこにいることが説得力になるスーパースターの存在感。
味方を鼓舞し、相手を挫き、観客を熱狂させる得体のしれない人間の凄さに心が震えた。
ざわめきの余韻を残したまま試合は延長戦へ。
延長でも世界一緻密なミスの潰し合いが続き、2-2のまま延長後半終了まで残り20秒。
このままPK戦という雰囲気の中、左サイドでネトがボールを持ち、この試合終始やり合ってきたフェルナンダウとマッチアップ。
ネトが左足アウトでパラレラのような形でボールを浮かしてライン際ギリギリでフェルナンダウと入れ替わり、余勢を駆ってそのまま左足を振り抜くと、ボールはファンホの脇を抜けポストを経由してゴールに突き刺さった。
ネトはブラジルが優勝した2008年大会ではメンバーから外れ、2004年大会ではスペインとの準決勝でPKを外し苦杯を舐めている。
単純な縦突破からのシュートかもしれないが、フットサルに必要なスピード、リズム、パワー、そしてここ1番で決めるメンタルが詰まった8年間の想いのあるゴールだった。
残り19秒。
スペインもキャプテンのキケがもう一度ゲームに集中するよう、必死にチームメイトを鼓舞する。
そのキケをゴレイロとして、たった19秒間のパワープレーで2本のシュートを放ち必死に追い上げるものの、濃厚な余韻を残して決勝戦は終わった。
スタジアムを駆け回るブラジル。
それを呆然と眺めるスペイン。
喜びも失望も決勝戦が一番大きいことを敗者の涙が教えてくれていて、選手もファンもフットサルが好きでここにいる。
悔しくて泣いたウクライナ戦。
好きの説得力を教えてくれたリカルジーニョ。
白熊みたいなロシアの大応援団。
清々しいまでに自分たちのスタイルを貫いたコロンビア。
そのコロンビアを一緒に応援したタイのオッサン。
存在に畏怖すら感じたファルカン。
観戦した決勝トーナメントの12試合、メッセージのない試合はなく、世界中の選手やファン、彼らから感じたのは強烈に何かを好きであることが放つ熱量の偉大さだ。
ワールドカップ決勝トーナメントを追いかけた9泊10日が終わる。
ネトが高らかにトロフィーを掲げる姿が強烈に眩しかった。
場内の様子をパノラマで。
試合前の会場の観客席。
ブラジルサポーターが目立っていました。
試合前のウォーミングアップ
両国の入場。
中央に置かれているのはワールドカップのトロフィー。
準優勝に終わったスペイン
表彰後、アリーナを一周するブラジル