2024/2/19 F1/F2入替戦 第2節 エスポラーダ北海道 1-4 ヴォスクオーレ仙台(2戦合計 3-7で仙台がF1昇格)
1戦目から見え隠れしていたが、2戦目は北海道の惰性、仙台の徹底が目立った。
象徴的だったのが前半14分の仙台の先制点の場面で、右サイドのキックインを左足シューターの森村選手がセットする。
後ろから走りこんできた小野寺選手のシュートに合わせる形で森村選手が軽く前に出すと、北海道の壁に入った水上選手が小野寺選手のシュートに備えすぎたか、ベタ立ちになったところを小野寺選手が足裏で縦に運ぶドリブルをチョイス。
深くまでフリーで運んでゴール前にシュート性のゴロを送ると、今季名を挙げた北海道のフィクソの本郷選手に対し、背後を匂わせて回り込んで前に入った浅野選手が体制十分で合わせて先制点を挙げた(公式記録は北海道のオウンゴール)。
Abemaの実況で長野しながわの入替戦で当時長野に在籍していた田村佳翔選手が『人生賭けろ!!』とチームメートに激を送っていたというエピソードが紹介されていたが、田村選手と同じ熱量で試合に入っていれば、同場面で一緒にキックインの壁に入っていた室田選手が大ベテランであろうと水上選手の胸倉を叩いただろうし、ゴール前であっさり振り切られた本郷選手を関口選手は叱責したはずだ。
強く、規律のあるチームであればここでしっかりと修正し、水上選手、本郷選手はこの後の試合、もしくは最低でも前半は出場機会がないだろうが、嵯峨監督は失点後のセット替えの後に本郷選手を、後半開始からは水上選手をピッチに送っている。
北海道出身者にこだわったチーム作りをしているのは理解できるものの、鋭いカウンターを武器にFリーグデビューを果たした2009年のリーグ戦4位、参入時からのベテランと関口選手ら第2世代が融合した2014年の全日本選手権準優勝後、それぞれの最高順位を塗り替えられないところに地域限定故の選手の質、量の限界がある。
ここ数年でチームに定着し、セットの柱として育ったのは木村優太選手のみではないだろうか。
シュート数は北海道44本、仙台が24本(前半は24本対7本)と北海道の惜しいシーンが多々あり、2-3と1点ビハインドで2戦目を迎えたものの同点勝ち抜けのアドバンテージを持つ北海道が先制すれば仙台のメンタルを大いに揺さぶれたはずだが、決まらないゴールに対し危機感よりも惜しいというリアクションが続き、目の色が変わったのがパワープレーに入るキッカケとなった仙台の3点目だったのが残念だった。
対して仙台は清水監督の勝負哲学が光った。以下4点をトピックとして挙げたい。
1.ムリなプレス回避の放棄。底でハマったらシンプルに対角に蹴る→ヘッドで中央に戻して回収 or 撤退。
2.両チーム中、最高の決定力を持つ丸山の起用を前半4分、後半5分に限定。常にフレッシュな状態で出場させて相手が焦れる後半に価値ある3点目をゲット。
3.全選手の有効活用。高校生の浅野が殊勲のゴール。ベテランの金須、渡邊、井上らの必死のディフェンスが北海道の時間を削り、仙台のオフェンスセットの体力を温存させた。
4.森村への全幅の信頼。ドリブル&左足シュート一本槍から、前後半30分近く出場するゲームコントロール型のアラフィクソに変貌
戦術的には1と2。
2はF1で戦う来シーズンは丸山の起用を我慢してゲームを進められるかが逆説的だがカギになりそうだ。
逆に1はF1全節で実践するのはチーム内から不協和音が出てきそう。
ボールを保持して仕掛ける試合が全体の3~4割はないと残留は厳しいのではと思う。
リアクションを保ちつつアクションの部分を構築できるかが開幕までの宿題になるだろう。
マネジメント的には3と4。
乾坤一擲の1戦で3のベテランの頑張りは涙腺を刺激した。特に背番号11、井上のディフェンス時の姿勢の良さ、相手の正面でひたすらフェイスオフを保つ様は神々しさすらある。
4の森村選手についてはすみだ時代によく見ていたが、正直すぎるタイミングでのシュートや、ファー詰めではなく確立の劣る直接シュートに辟易する場面が多々あり、大いにヤキモキさせられた。
仙台では唯一のワールドカップ出場者であり、その経験値は群を抜いている。
おそらく清水監督が森村選手がチームに還元できることと、役割をうまく整理し伝えているのだと思うが、個よりチームに利を成すプレーが随所にあり、プレーヤーとして非常に深みが出たと思う。
さすがに全節この時間の出場は厳しく、裏セットの指揮者役の獲得をお願いしたいが、左足の強シュートで後方から睨みを利かす仙台の王様はF1でも無視できない存在になるはずだ。
最後に清水監督だが、試合終了後のインタビューが秀逸だったので触れたい。
試合終盤の北海道のパワープレーを耐える時間に何を考えていたか、という問いに対して、
『これまでの辛かった時間(仙台のライセンス剥奪、その後の東北リーグ、F2での活動)を考えていた。
(そこからあともう少しでF1というところまで来たが)相手があって初めてフットサルは成立する。
嬉しさはありつつも対戦してくれている北海道へのリスペクトは失わないよう戦おうと考えていた』
といった趣旨のことを勝利の価値が何よりも重い戦いの後に語っていて、ちょっと次元が違うなと感じた。
Fリーグ以降の清水監督の選手時代の経歴は、浦安に在籍していた2008年の全日本選手権優勝が唯一のタイトルであり、その後は参入初年度の府中、Fリーグ最終年の花巻、再び参入初年度となる仙台と勝ち星に恵まれない戦いが続く。
浦安在籍時を入れた勝率は31.7%、浦安を除けばわずかに19.7%となるが、単純な勝ち負けでないところにフットサルの魅力や、続ける価値を感じているのだと思う。
今季の仙台は清水監督が久々に出会った勝てる可能性があるチームだ(14勝1分1敗で勝率は88%)。
強烈なフィジカルとシュート力の丸山選手は2008年に全日本選手権を制した時の稲田祐介選手にダブるものがあるし、森村選手が新境地を開拓中の左利きでゲームをコントロールするアラフィクソといえば藤井健太選手が思い当たる。
華やかなイメージのある初期の浦安だが、屋台骨を支えたのは平塚雅史選手、小宮山友祐選手、そして清水誠自身の泥臭いディフェンスだ。
自分の原型というのは苦しい時にこそ滲み出てくるのではないだろうか。
当時名古屋と真っ向勝負を演じていたクオリティにはまだ及ばないだろうが、2024年シーズンにF1を戦う仙台に、2008年の浦安を重ねながら見てみるのも面白いのではと思う。